著者:野村ケンジ
SpinFit(スピンフィット)といえば、傘の部分が柔軟に傾く特許取得の3Dクッション構造によって、個人差のある耳中へ柔軟に対応し、様々なイヤホンをジャストフィットさせてくれる画期的なイヤーピース。そんなSpinFitから、新モデル「CP100+」が登場しました。
「CP100」といえば、数多いSpinFitイヤーピースのなかでも主軸モデルのひとつなので、進化版の登場は大いに興味がひかれるところです。ということで、CP100+のサンプルを借用し、オリジナルCP100と比較しつつその特徴を様々なイヤホンでチェックしてみました。
目次
- SpinFit CP100+の概要
- イヤホンで使ってみた
- 1.acoustune HS1300
- 2.acoustune HS1670SS
- 3.CampFire Audio ANDROMEDA
- 4.DUNU DK-4001
- 5.DUNU DK-2001
- 6.FitEar TG334
- 7.FitEar EST Universal
- 8.TFZ KING PRO
- 9.AKG N40
- 10.final VR3000
- 11.final A8000
- 12.JVC HA-FW10000
- SpinFit CP100+まとめ
SpinFit CP100+の概要
まず、外観はオリジナルとほとんど変わりません。独自の3Dクッション構造はもちろんのこと、フィット感のよい傘部分の形状や、傘からわずかに飛び出した軸部分など、装着性にまつわる部分はCP100ならではの特徴が変わりなく受け継がれています。しかし、実際に装着してみると、傘の部分のフィット感が向上していて、しっとりとした感触に変化しています。これは、素材が医療用シリコンへと変更されたことによる効用でしょうか。オリジナル(高純度シリコン採用)も良好なフィット感でしたが、新素材では表面はペタペタとしているわけではないのにピッタリ装着して動きづらいという、なかなか絶妙な作りです。おかげで、使用中はほとんど外れることがなくなりました。筆者は残念ながらカナル型イヤホンが耳からこぼれ落ちやすい人間なので、CP100+のフィット感の高さはありがたいかぎりです。また、感触もまるで不快感がなく、長時間装着し続けてもそれほど苦にはなりませんでした。

ちなみに、外観ではちょっとした変更がありました。それは軸部分が透明素材になったことです。これまで、SpinFitでは軸部分にカラフルな不透明素材(塗料!?)を採用していましたが、CP100+では透明なカラー素材を採用。わずかな変更ではありますが、どことなくカジュアルな印象となりました。これはこれで、好ましいように思います。
サイズはSSからXLまでの5つが用意されています。また、サイズが大きくなるとわずかに高さも増していて、フィット感をキープしています。
イヤホンで使ってみた
ということで、実際のイヤホン製品を使用して、どういった音の変化があるのかをチェックしていきましょう。基本的には、イヤホン製品の純正、CP100、CP100+の3タイプを比較試聴しました。なお、CP100+は(CP100も同様ですが)サイズによって高さが変わるため、念のため筆者に比較的フィットするMとSの2サイズを試し、イヤホンによって使い分けています。
1.acoustune HS1300

acoustuneは、傘の形状が異なるタイプを用意するなど充実した純正イヤーピースを同梱しています。そんな製品だからこそ、あえてSpinFit新CP100+を試してみました。ちなみに、比較用の純正は傘形状の近いAET08(Mサイズ)を使用してしています。
純正は、そつのない音といった印象でした。フィット感もまずまずで、低音も充分以上の量感を保っています。しかし、これをCP100に交換するとフィット感が格段に向上してくれました。また、音質も変化して中高域がクリアに聞こえるようになりました。ただし、純正に対して低域の量感が弱まる傾向にあるので、サイズや装着位置をシビアにチェックする必要はありそうです。
CP100+に変更すると、CP100で少々不満に思っていたポイントが一気に解消。個人的にここだ!と思える理想の位置にピタッと装着できたため、低音も充分な量感が確保されバランスのよい帯域特性になってくれました。また、解像感も向上、音色も自然な印象です。まずまず、CP100+とのマッチングのよいイヤホンといえるでしょう。
2.acoustune HS1670SS

同じくacoustuneの人気モデル「HS1670SS」も試してみました。こちらも純正はAET08(Mサイズ)を使用しています。
純正は、人気のハイスピード&キレのあるサウンドが存分に楽しめます。ただしイヤホン形状が独特のため、筆者はAET08だとまともに装着できず、普段はダブルフランジタイブを使用していたりします。それをCP100に交換すると、フィット感が格段に向上。中高域に感じられたちっょとした音色的ざらつきが解消され、さらに低域の量感も増してくれるので迫力のよいサウンドが楽しめます。
そしてCP100+に変更すると、グッと締まりのよい音になりました。中高域と低域の音色的な統一感が生まれ、一体感のある聴きやすい、ナチュラル志向ともいえるサウンドへと変化してくれます。純正イヤーピースのイメージもあって、HS1670SSは高域の尖ったサウンドの印象が強かったのですが、全く違うキャラクターが隠れていたので驚かされました。CP100+との相性は、かなり理想的だと思います。
3.CampFire Audio ANDROMEDA

スピード感のあるクリアな音を聴かせてくれるANDROMEDAですが、CP100に交換すると一段とダイレクト感が増し、とてもキレのよい音になります。しかし、ややオーバーな表現ともいえますので、このあたりは好き嫌いが分かれるかもしれません。
CP100+に交換すると、サウンドキャラクターが一転し、ANDROMEDAならではのダイレクト感、突き抜けた高域の鋭さが蘇ってきました。それでいて、全体的にはバランスの整った聴きやすい音色傾向だったり。なかなかに面白い表現です。これが本来の、ANDROMEDAのサウンドなのでしょうか。そのいっぽうで、ヴォーカルのリアルさが向上して普段より随分と感情的な歌声に聴こえる点は嬉しいかぎりだったりもします。好みはあるかもしれませんが、悪くない相性だと思います。
4.DUNU DK-4001

もともと純正としてSpinFit(CP500の専用カスタム品と思われる)が付属しているDK-4001なので、純正ふくめSpinFit3モデルの比較ができるのはなかなか興味深い!と思い今回のテストに加えてみました。
まず、純正SpinFitはDUNUらしい、DK-4001ならではの高い解像感と強烈なエネルギー感を素直に表現してくれる、キャラクターのはっきりした組み合わせだと感じました。それをCP100に交換すると、解像感の高さやキレのよさはそのままに、低域の量感が増えたため重心がほんの少し下がります。装着感、音質ともにほとんど変化がなく、交換するメリットはないかもしれません。
しかし、CP100+に交換すると音が変わり、より自然な音色となります。高域が少しばかり騒がしいクセのあるキャラクターは残っていますが、DK-4001は好きだけどもうちょっと落ち着いた音にしたい、という人にはオススメの組み合わせといえます。
5.DUNU DK-2001

DUNU製品からはもうひとつ、ハイブリッドドライバー構成のロングセラーイヤホン「DK-2001」も試してみました。こちら、純正イヤーピースはSpinFitではなく、ごく一般的なタイプが付属しています。
まず純正イヤーピースを聴くと、過去に感じた「DK-2001」のイメージそのもの、奔放な表現の活き活きとしたサウンドが楽しめます。音色はややドライ、ヴォーカルはややハスキーといったイメージでしょうか。
CP100に交換するとよい意味で“普通”の音になります。ハスキーな歌声の印象を残しつつも、高域のクセが抑えられ、同時に中高域がダイレクトになるため音質が向上します。
この組み合わせも悪くはないですが、ベストはやはりCP100+でしょう。中高域、低域の音色的な統一感が生まれ、とても自然な音色の演奏や歌声が楽しめます。特に、ヴォーカルはほんの少しウォーミーな、厚みのある歌声に変化しますので、バラードなどの楽曲にはピッタリです。
6.FitEar TG334

カスタムIEMのメジャー日本ブランド、FitEarのTo Go!シリーズ最新作「TG334」が手元にあったので、こちらも試してみました。こちらの製品、ノズル部がかなり大きい、かつ楕円形をしているため、CP100+では開口面積が足りないようにも感じましたが、 ダメモトで試してみたところ、興味深い結果が出てきたのでレポートします。
とても自然で上質なサウンドを持つ「TG334」ですが、CP100に交換すると開口部サイズの影響か、高域が大きく減衰する強いウォーミー傾向の音色に変化します。残念ながら、マッチングがよいとはいえません。
しかしCP100+に交換すると、多少ウォーミーなサウンドではありますが違和感はなく、逆に女性ヴォーカルは声に艶やかさが増し、純正よりも感情の強い表現に感じられます。低音も多少強調されるので、迫力もちょい増しとなります。音を積極的に変化させて楽しみたい、という人には是非試して欲しい組み合わせです。
7.FitEar EST Universal

手元にあったEST Universalも試してみました。
こちらのノズル部も大口径かつ楕円形なので、CP100では上手く装着できなかったのですが、CP100+では音の特徴をマスクすることなく、それでいてSpinFitならではのピタッとした装着感を実現できました。
とはいえ、軸の径や長さを考えるとSpinFitではCP145(軸の長さが短い)やCP500(軸の径が大きい)も試して自分にとってのベストマッチングを探して欲しいところです。
8.TFZ KING PRO

純正は2タイプのシリコンイヤーピースが付属するKING PROですが、どちらを使用してもキャラクターに大きな変化はなく、距離感の近いダイレクトなサウンドを聴かせてくれます。そんなKING PROのイヤーピースをCP100に交換するとあら不思議、低域のメリハリが増しつつ中域が自然な印象へと変化するため、とても聴きやすい音へと変化してくれました。
さらに、CP100+に替えることで中高域と低域のバランスが整い、音色も自然な印象になってくれます。音場的な広がり感のナチュラルで好印象。聴きやすく、それでいて正確な表現へとグレードアップしてくれました。今回視聴した中でも1、2を争うほど、CP100+との組み合わせがオススメな製品です。
9.AKG N40

やや古い製品ではありますが、ロングセラーモデルAKG N40でも比較テストしてみました。
標準イヤーピースではディテール表現がきめ細やか、抑揚表現にいっさいの破綻を感じないとてもジェントルな音色傾向をもつN40ですが、CP100に交換するとダイレクト感が増し、メリハリのある表現へと変化します。しかし、帯域バランス的に整っているかというと、いまひとつな印象は否めません。純正イヤーピースのほうがウェルバランスといえるでしょう。
しかし、CP100+に変更すると問題点がたちまち解決。N40本来のジェントルな表現へと回帰して、バランスのよい音を聴かせてくれるようになります。低域の量感が高まっているので迫力あるサウンドが楽しめます。総じて装着感良、音質良、音色良といった、CP100+の優等性っぷりが発揮された組み合わせでした。音質の好み次第ではありますが、なかなか魅力的な組み合わせといえます。
10.final VR3000

揺るぎのない正確な音場描写を持ち合わせている、ゲーミング用途にベストなイヤホン。純正イヤーピースの作りもよく、そのままでも良好なサウンドを聴かせてくれますが、人によっては装着感にちょっとした不満を抱くかもしれません。そんな場合はCP100に交換することで(3Dクッション構造により)ピッタリとフィットしてくれるようになります。サウンドも高域が伸びやかなヌケのよい音へとグレードアップしてくれます。
さらにCP100+では、ピッタリとした装着感になってくれますのでとても安心です。リスニング中にポロリとこぼれることはまずないでしょう。サウンドも、CP100と同じようなダイレクト感を保ちつつ、自然な帯域バランスや音色になってくれるので、マッチングのよい組み合わせといえるでしょう。
11.final A8000

ベリリウム箔振動板を搭載したfinalのフラッグシップモデル、A8000との相性も試してみました。A8000の本体は比較的重いこともあって、純正イヤーピースだと(あくまで個人的にですが)装着に落ち着きがないため、普段は同じfinal製の完全ワイヤレスイヤホン用(素材が柔らかく高さも付属の製品に比べると少し低いタイプ)を使っていたりします。
さて、CP100に交換するとフィット感が向上します。イヤーピースの先端がが純正よりもやや奥になる印象ですが、違和感はありません。音質も良好といえるものですが、残念なことに音像が遠くなってしまい、ベストな組み合わせとはいえません。
CP100+に変更すると、装着感がさらによくなり、音像も近づいてくれます。音質に関しては好みの範疇ですが、装着感についてはCP100+の優秀さが一歩抜きんでていました。
12.JVC HA-FW10000

ビクターブランドの最高級イヤホン、FW10000でもCP100+との相性も確認してみました。
JVCはスパイラルドットという、人気のある市販イヤーピースを展開しており、このFW10000にも純正版の“スパイラルドット+”が同梱されています。そんなイヤーピースをあえて変更するとどういった結果が得られるのか、とても興味深いためあえて今回試してみることにしました。
装着についてはCP100シリーズならではの良好さが純正スパイラルドット+を上まわり、CP100、CP100+のどちらもしっかりとした装着感をもたらしてくれます。しっとりとした肌触りのぶん、CP100+のほうがいっそう有利な印象でした。
音質に関しては、CP100のみマッチングが悪く中高域がざわざわとした印象の落ち着かない音に感じられました。いっぽうのCP100+は、ヴォーカルやギターなど中域パートがグッと前に出てきて、いちだんとアグレッシブな音場表現となります。フラットな純正がよいかメリハリのあるCP100+がよいかは好み次第ですが、せっかくですから気分に合わせて2つを使い分けたいと思いました。
SpinFit CP100+ まとめ
このように、外観こそオリジナルとあまり変わらないCP100+はですが、装着感、音質ともに着実なグレードアップを果たしており、別物といいたくなるくらいの完成度を持ち合わせていました。よほどオリジナルと相性のよいイヤホンでもないかぎり、CP100+を選ぶのが賢明でしょう。特に素材変更によるフィット感の向上は格別のもので、ほかの市販イヤーピースに対しても確実なアドバンテージを持ち合わせていました。総合的に、とても魅力的な製品だと感じました。
野村ケンジ
オーディオビジュアル系ライターです。いろいろな雑誌やWEBメディアに原稿を書かせてもらってます。TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNセレクト」コーナーのアドバイザーもやらせてもらってます。Youtubeも細々続けてます。